公園で演奏していると様々な人に出会ったり、色々な出来事が起こったりしますが今回はその中から一つ。
多分7,8年前のことでしょうか、今はメインで演奏しているのはマンハッタンの西北部にある Washington Sq park ですが、その当時は主にマンハッタンの真ん中に位置するCentral Park で演奏していました。
このセントラルパーク、映画等にもよく出てくるのでニューヨークに来たことのない人でも、どこかでその風景を見てる人が多いのではないでしょうか?
僕が見た中でぱっと思いついて印象に残っているのは「ダイハード」や「フィッシャーキング」等が挙げられます。
しかし、ニューヨークは本当に毎日のようにいたるところで撮影が行われています。僕が演奏しているワシントンSQでも行ったら映画撮影が始まって演奏できない!なんてことも時々あります。(そんな時は交渉するのですがこの辺りの話は又別の機会に。)
でそのセントラルパーク、大きい公園なのでいくつかの演奏スポットがあるのですが、当時僕が演奏していたのはパーク南東にある子供動物園の近く。
因みにこの動物園まだ行ったことないのですが、公園を歩いていくとセイウチやアシカが泳ぐプールが見えたりして、小さいですが意外に楽しそうです。
そんな場所柄、観光客や現地の人を含め子供連れの人が多く立ち寄る場所なんですね。
それは多分初夏の凄く過ごしやすい天気の一日だったと思います。
その日のメンバーはこの写真に写っているトランペットのStepko Gut さんとベースのDimitry さんとあとドラム(誰だったかは忘れてしまいました。)で演奏していました。
因みにこのトランペットのStepkoさん日本では全くと言っていいほど無名ですが、故Clark Terry 直系の凄く歌う素晴らしい演奏をします。僕もこのStepkoさんからDoodleタンギングの手ほどきを受けました。
多分なにか軽快なテンポの曲を演奏していた時のことだと思います。
4,5歳位の子供が一人踊り始めたんですね。子供って本当に正直なものでSwingする時はすぐに体を動かして乗ってくるんです。逆に子供が動いてないときは演奏に何かが欠けていると思って間違いないと思います。
そうしたらもう一人多分全く関係のない子供だと思うんですが、その子と手を繋ぎ合って踊り始めたのです。
そこまではよくある光景なので、演奏しつつ横目で今日は乗っているなーなんて思いつつ吹いていたんです。
そうしたらその場にいた子供全員、多分5,6人でしょうかその子供達が手を取り合ってこの写真にあるようなチップ入れのケースの周りを踊りながら周り始めたのです。
木々からもれる初夏の優しい午後の日差しの中で、世界が際限なく喜びとともに拡がっていくような感じでした。
そこには演奏する人や聞く人といったものはなく、それらを超越した何かが確実にそこにあったと思います。
もし天国というものがあるとすれば、その時僕たちはそこにいたのかもしれませんし、まるでみんなの集合意識で飛ぶ宇宙船に乗って離陸したような感じさえしました。
僕はなぜだか自然に涙が出てきて、演奏しながらその涙を堪えるのに大変だったのを覚えています。
演奏を終えてある種茫然となって周りのメンバーを見渡すと、みんなが目に涙をためています。
言葉を失うとはよく言いますが、人間自分を超越したものに出会うと言葉を失うものなのかもしれません。
それが何だったか今考えてみてもわからないのですが、その時の情景ははっきりと覚えており、その瞬間は奇跡であり真実であったのは間違いはありません。
それ以来そんな経験はしていないですし、これからするかもわからないですが(もしするとしてもそれは全く違う形で現れてくるように思います。)その時の経験はまるで強烈な光によって焼き付けられた影のように、僕の中へとどまり僕の人生に反映していくように思うのです。
2015年8月11日火曜日
2015年8月4日火曜日
続々・芸は身を助ける
さて、僕が乗った次の駅で乗り込んできた警察官二人、別に慌てる様子や警戒するでもなく他の乗客のチケットを確認し、ついに僕のところに来ました。
「チケット見せて。」
僕はポケットの中をわざと指先でまさぐるようにしながら、先ほど電車に乗った駅で拾ったチケットを無言のまま差し出しました。
「これは有効でないから、ダメだね。」
この時僕がどういう表情をしていたかは定かではありませんが、いわゆる挙動不審だったのではないでしょうか。
頭の中ではものすごいスピードで様々な状況を想定して、シュミレーションが行われています。
「罰金はどのくらいなんだろう。いや罰金だけで済めばいいけど、最悪留置所だぞ。そうしたら誰に電話を一番にかけるべきだろうか。」などといった会話が頭の中で繰り広げられています。と同時にほら言わんこっちゃないという声や、お前はこの非日常を期待していたんだろう、等といった声も聞こえます。
「次の駅でとりあえず降りてもらえる?」
と警官に言われ素直に従って降りることにしました。
言われて降りた駅はNew Jersey 郊外の周りにはお店も何もない無人駅。真っ暗で閑散としています。
「ID とポケットの中の物出して。」
その日、僕は週末でBusking(ストリートで演奏することをこちらではバスキングと言います。)したためポケットの中には$100ほどの現金が1ドル、5ドル紙幣で入っていました。
余談ですがこちらはクレジット社会なのであまりみんな現金を持ち歩きません。大体感覚としたら$20もポケットに入っていたら安心でしょうか。
こんなに現金を持っているのは明らかにおかしいわけであり、ドラッグディーラーに勘違いされるのではないだろうか等と思いつつ、その考えとは無関係に警察官二人は僕の所持品をチェックしていきます。
前述のようにその日演奏していた僕は背中に大きなトランペットとフリューゲルホーンが入っていいる黒い革製のケースを持っていたのですが、警察官がそれを指差しこれはなんだと半分好奇心を含んだような声で聞いてきます。
「僕は音楽家なのでこれはトランペットとフリューゲルホーンです。」という返事が終わるか終わらない前に、
「開けて見せろ。」
という声によってそれは真夜中の無人駅で開けられました。
あまり、音楽に馴染みのない人たちだったのでしょうか、いちいちケースから楽器を取り出させて興味深そうに見ています。
「分かった。もうしまっていいよ。」
そんなこんなでひとしきりチェックが終わったあと、何やら二人の警察官が僕と少し距離をおいて話しています。小さい声で話していたのであまり聞き取れなかったのですが、感じとしては、
警官1「こいつどうしようか?」
警官2「怪しそうな奴じゃないけど、お前に任せるよ。」
みたいなことを言っているように思えました。
どのくらいの時間が経っていたかは定かではありませんが、その間電車が一本も来なかったことを考えると、僕が感じていた気のくれるような長さとは裏腹にそれほど大した時間ではなかったように思えます。
二人は話を終えて僕の所へ戻ってきましたが、先ほどの尋問するような調子とは少し声のトーンが和らいでいるように思えます。
僕のケースを指さしつつ
「これちょっと吹いてみてくれ。」
一瞬なにが起こっているか理解できませんでしたが、さっと状況を理解すると頭の中では何百とあるレパートリーの中からこの状況に一番良いと思われる曲を高速でスキャンし始めます。
で、出てきたのが Thelonious Monk の「Round about midnight 」!
まあムードのある曲だし、深夜12時位だったのでその辺の humor も含めてこの曲を選んだように記憶しています。
この曲に運命がかかっている!と思った僕はものすごいプレッシャーの中、指が震えたりするのを押しのけつつ曲を吹き始めました。
途中二人の警察官がこんな会話をするのが聞こえてきます。
「いいなー、こいつ。」
「なんか今ビールでもあったら、飲みながら聞きたい気分だよ。」
深夜の誰もいない真っ暗な駅(地上の駅です。)に僕の音が響き渡ります。
緊張しているせいもあってなかなか思うようには吹けません。
が、一音入魂の思いで吹き続けます。
やっとのことで演奏を終わると、先ほどまで悦に入って聴いていた警察官が言いました。
「今日は許してあげるから、そこでチケットを買って次の電車でいきなさい。」
その時の心境はどんなのだったかあまり覚えていませんが、ぐっと疲労感が襲って来たのは覚えています。
立ち去ろうとする警官達、楽器をしまおうとする僕。
ふと、その警官が踵を返して戻ってきます。
「すわっ、気が変わったのかな。」
と思った矢先にその警官から出てきた言葉は、全く僕の予想しないものでした。
「もう一つの楽器(フリューゲルホーン)の音も聞きたいから、もう一曲吹いてくれ。」
そのリクエストに答えてすかさず僕が選んで吹いたのは、
「 What a wonderful world 」
「チケット見せて。」
僕はポケットの中をわざと指先でまさぐるようにしながら、先ほど電車に乗った駅で拾ったチケットを無言のまま差し出しました。
「これは有効でないから、ダメだね。」
この時僕がどういう表情をしていたかは定かではありませんが、いわゆる挙動不審だったのではないでしょうか。
頭の中ではものすごいスピードで様々な状況を想定して、シュミレーションが行われています。
「罰金はどのくらいなんだろう。いや罰金だけで済めばいいけど、最悪留置所だぞ。そうしたら誰に電話を一番にかけるべきだろうか。」などといった会話が頭の中で繰り広げられています。と同時にほら言わんこっちゃないという声や、お前はこの非日常を期待していたんだろう、等といった声も聞こえます。
「次の駅でとりあえず降りてもらえる?」
と警官に言われ素直に従って降りることにしました。
言われて降りた駅はNew Jersey 郊外の周りにはお店も何もない無人駅。真っ暗で閑散としています。
「ID とポケットの中の物出して。」
その日、僕は週末でBusking(ストリートで演奏することをこちらではバスキングと言います。)したためポケットの中には$100ほどの現金が1ドル、5ドル紙幣で入っていました。
余談ですがこちらはクレジット社会なのであまりみんな現金を持ち歩きません。大体感覚としたら$20もポケットに入っていたら安心でしょうか。
こんなに現金を持っているのは明らかにおかしいわけであり、ドラッグディーラーに勘違いされるのではないだろうか等と思いつつ、その考えとは無関係に警察官二人は僕の所持品をチェックしていきます。
前述のようにその日演奏していた僕は背中に大きなトランペットとフリューゲルホーンが入っていいる黒い革製のケースを持っていたのですが、警察官がそれを指差しこれはなんだと半分好奇心を含んだような声で聞いてきます。
「僕は音楽家なのでこれはトランペットとフリューゲルホーンです。」という返事が終わるか終わらない前に、
「開けて見せろ。」
という声によってそれは真夜中の無人駅で開けられました。
あまり、音楽に馴染みのない人たちだったのでしょうか、いちいちケースから楽器を取り出させて興味深そうに見ています。
「分かった。もうしまっていいよ。」
そんなこんなでひとしきりチェックが終わったあと、何やら二人の警察官が僕と少し距離をおいて話しています。小さい声で話していたのであまり聞き取れなかったのですが、感じとしては、
警官1「こいつどうしようか?」
警官2「怪しそうな奴じゃないけど、お前に任せるよ。」
みたいなことを言っているように思えました。
どのくらいの時間が経っていたかは定かではありませんが、その間電車が一本も来なかったことを考えると、僕が感じていた気のくれるような長さとは裏腹にそれほど大した時間ではなかったように思えます。
二人は話を終えて僕の所へ戻ってきましたが、先ほどの尋問するような調子とは少し声のトーンが和らいでいるように思えます。
僕のケースを指さしつつ
「これちょっと吹いてみてくれ。」
一瞬なにが起こっているか理解できませんでしたが、さっと状況を理解すると頭の中では何百とあるレパートリーの中からこの状況に一番良いと思われる曲を高速でスキャンし始めます。
で、出てきたのが Thelonious Monk の「Round about midnight 」!
まあムードのある曲だし、深夜12時位だったのでその辺の humor も含めてこの曲を選んだように記憶しています。
この曲に運命がかかっている!と思った僕はものすごいプレッシャーの中、指が震えたりするのを押しのけつつ曲を吹き始めました。
途中二人の警察官がこんな会話をするのが聞こえてきます。
「いいなー、こいつ。」
「なんか今ビールでもあったら、飲みながら聞きたい気分だよ。」
深夜の誰もいない真っ暗な駅(地上の駅です。)に僕の音が響き渡ります。
緊張しているせいもあってなかなか思うようには吹けません。
が、一音入魂の思いで吹き続けます。
やっとのことで演奏を終わると、先ほどまで悦に入って聴いていた警察官が言いました。
「今日は許してあげるから、そこでチケットを買って次の電車でいきなさい。」
その時の心境はどんなのだったかあまり覚えていませんが、ぐっと疲労感が襲って来たのは覚えています。
立ち去ろうとする警官達、楽器をしまおうとする僕。
ふと、その警官が踵を返して戻ってきます。
「すわっ、気が変わったのかな。」
と思った矢先にその警官から出てきた言葉は、全く僕の予想しないものでした。
「もう一つの楽器(フリューゲルホーン)の音も聞きたいから、もう一曲吹いてくれ。」
そのリクエストに答えてすかさず僕が選んで吹いたのは、
「 What a wonderful world 」
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